助手席に置きっぱなしにされた白いケータイから曲が聴こえる。


それから流れてるのは、アレクサンダー・ウィズの『カミング・ホーム』だ。


洋楽をあんまり聴かない私でもこの曲は知ってる。


ケータイには[泉堂央]と名前が表示されていた。


たぶん電話だと思う。


しばらく流れていた曲は、先生がきた頃に途切れた。


「待たせてごめん」


運転席に座った先生に鍵を渡す。


「ケータイ鳴ってましたよ?」


亜美子の言葉に、先生はケータイを開いた。


「しっまた…」


困った顔で先生が一言呟く。


なにがしまったなのか深く聞くことも出来ずに、車のエンジンがかけられた。


何事もなかったかのように、私たちにナビするように言って車を運転する先生。


私の方が先に送ってもらうことになって、家までの道を先生に教えながら化学の授業について三人で話した。


家に着くのはあっという間で、車から降りてドアを閉めた。


助手席の窓が開いて先生が顔を出す。


「また明日な」


「はい、ありがとうございました」


先生にお礼を言って、亜美子に“ばいばい”って手を振る。