「俺の名前が一番上!」
「何でだよ!勝也より俺だろ!」
「勝也も太一もそんな事で言い争うなよ」
勝也と太一の言い争いを止めようとしている明の言葉に、当の二人は全く耳を貸していない。
これが明ではなく、亮介なら言い争いも直ぐにピタッと止まるのだろう。
亮介には人を惹き付ける何かがあるのかもしれない。
クスクスとこの場の状況を笑いながら見ているひなもまた、亮介に惹き付けられている一人だ。
そんな中、
「まあ、あれだね。なるべく目立たない様に下の方に彫るのが良いだろうね」
「だね」
冷静な判断を下す卓の意見にひなが相槌を打った。
教室の柱に名前を彫るのだから、バレた瞬間犯人がひな達だと分かってしまう。
その危険性も卓はしっかりと考えている。
8人の意見を纏めるのが亮介の仕事なら、卓の仕事はその意見を実現可能か吟味する事だろう。
「でも、何で彫るんですか?」
ふんわりとした話し方で首を傾げる夢。
その質問を待っていたかの様にひなが自分のスカートのポケットに手を入れると、中から彫刻刀を取り出して掲げた。
「ジャジャーン!彫刻刀持ってきてたんだ!」
「やる気満々じゃん」
「でしょ!」
シシッと白い歯を見せて笑うひなの頭をポンッと軽く叩く亮介。
その瞬間、ドクンッとひなの心臓が跳び跳ねた。
それを誤魔化す為に、彫刻刀を持ったまま教室の窓側の後ろの隅へと歩を進める。
そんなひなの様子をクックッと喉を鳴らして笑っている亮介の視線は、ひなに釘付けだ。