「うん。綺麗に皆の名前が並んでる」
ズラッと並んだ7人の名前。カタカナがこうも並ぶとどこか暗号文の様だ。
「後は俺だけだな」
その亮介の言葉にひながコクッと頷く。と、共に口を開いた。
「亮介の名前で終わり。はい、どうぞ」
にこっと微笑んで亮介の手へとポンッと彫刻刀を置く。
それをギュッと握りしめて、
「サンキュッ」
そうひなに言う亮介の目はどこか切なさを含んでいる様に見える。
亮介がここに名前を彫り終わったら、本当にこの教室ともさよならになる。
それをここにいる8人全員が分かっているのだ。
皆が見守る中、少しづつ彫られていく亮介の名前。
その間、誰かが話し出す事はない。
じっと亮介の名前が刻まれていくのを見つめている。
「よしっ!出来た!」
柱に向けていた顔をガバッと上げて、ゆっくりと立ち上がった。
亮介と目が合うとふわっと微笑むひな。
ひなの微笑みは、このどことなく寂しい雰囲気を明るくさせる。そんな温かさを含む微笑みだ。
そっとひなが皆の名前が刻まれた柱へ視線を向けた。
一番上に刻まれた『マブチカツヤ』の文字。
少し右上がりになっているのが、直ぐに調子に乗る勝也らしい。
卒業式が始まる前に手当たり次第に女と付き合うのは今日までだ!等と言っていたが、あれはきっと嘘になるのだろう。
次の『ヤシロタイチ』は、他の皆のものより深く彫られている。
アフロヘアーで、お気楽そうに見える太一だけど、実は実家を継ぐと決めているしっかり者。