そして軽快な足取りで亮介の側まで来ると、ポツリと言葉を漏らす。



「ひなの次に彫れそうで良かったじゃん」


「うっせぇよ!さっさっと彫って来いよ、卓!」



眉間に皺を寄せてムッとした表情で亮介が卓を睨み付ける。


それをへらっとかわすのは、卓ならではなのだろう。



「はいはい。分かったよ」



ひらひらと手を振って柱へと向かう卓。それを不思議そうな顔をして見ているのはひなだ。


どうやら、さっきの卓が亮介に言った言葉がひなには聞こえていなかったらしい。


卓に向けていた顔を隣にいる亮介へと向ける。



「何言われたの?」



その質問に「まあな」なんて曖昧な答えしかくれない亮介。


こういう時の亮介には、どれだけ聞いても答えは返って来ない事をひなは知っている。


ひなと亮介はいわゆる家が隣同士の幼馴染みというやつなのだ。


そうなると当然ずっと一緒にいる訳で。


亮介の癖や隠し事なんてひなにとってはお見通しなのだ。



ひなが亮介を見つめていると、卓の声が飛んできた。



「次はひな、どうぞ」


「あっ、うん!」



小走りで卓へと駆け寄ると、卓から彫刻刀を受け取る。


スカートのポケットに入れていた時よりもズシッと重みを感じるのは、皆の思いが詰まったから。なのかもしれない。


そう思って笑みを漏らす。


そして、そっと彫刻刀を柱へと突き立てた。


『カンザキヒナ』


しっかりとひながその文字を刻んだ時、



「彫れたか?」



ひなの後ろからひょこっと亮介が顔を覗かせた。