自分以外にも亮介の順番を気にしていた人がいた。


それが何だか分からないがひなの胸をズキズキさせる。


ひなのそんな気持ちなんて知る訳もない亮介は、へらっと笑って首を横に振り、


「いや、まだいい」


そう答えている。



亮介への気持ちに蓋をしようと決めたというのに、こんなに気持ちがグラグラ揺れていたら駄目だ!


そう思って頭をぶんぶんと横に振るひな。


ひなの隣にいる亮介が、突然のひなの行動に不思議そうな顔をして首を傾げたが、ひなは気付いていない。


そんな中、


「あっ、じゃあ僕が!」


そう言って、明が柱へと近付いて行った。


積極的ではないけれど、最後になるのも嫌というタイプの明だからこそ、この順番が妥当なのかもしれない。


明の方に顔を向けてた梓が手に持っていた彫刻刀をクルッと回す。


その行動に梓が怪我をするんじゃ!とドキッとして目を見開いたのは、ひなだけだったらしい。



「了解。じゃあ、明は夢の後ね!」


「うん」



彫刻刀を回すという危険な事をした梓も、その梓に返事をしていた明も全く気にしていない。


他の皆だって気にした様子がない。


そんな事を気にしたのはひなだけ。


梓、夢、明という順番で回っていく彫刻刀。


次は誰?そうひなが周りを見渡した時、動きを見せたのは卓だ。



「僕も先に彫らせて貰うよ」


「ああ、良いぜ」



卓は亮介へとそう声を掛けた後、黒縁眼鏡のウェッジをクイッと人差し指で少し押し上げた。