そんなある雨の日。

下校中に大雨が降ってきてしまい、私は仕方なく一軒のカフェの軒下に雨宿りをした。

そこは人通りのない静かな道にポツンと昔からあるお店で、謎も多いお店だった。


誰かは暗いお店だと言い、誰かは良いお店だという。

どっちにしろ、あまり繁栄はしていないお店。


こんなところで雨宿りもしたくなかったが、なにせ施設まではまだ距離があった。

途中、傘を買えるようなところも無かったため、せめてもう少し弱くなるまで待とうと思ったのだ。


折りたたみの傘を忘れてしまったことをひどく後悔した。


5分、10分と待ってみるが、雨は弱まることなく、むしろひどくなる一方だった。

仕方ない、走って帰るか…と思っていた時、お店の扉がゆっくりと開いたのであった。


扉が開いたと同時に広がる、コーヒーの豊かな香り。

そして一人の男性が現れた。


「中、どうぞ?」


これがマスターとの出会い。


「すみません、もう帰ります。迷惑でしたね。」


よく考えれば、お店の前にずっと立っているのも迷惑な話だ。


「雨、もう少し弱まるまで待ってみたら?」

「いや、でも…」

「お腹空いていないかい?大丈夫、お金は取らないよ。」


すらっとした身長で、黒の短髪。少し生やしている顎鬚が紳士的に見えた。


あんなに大人が嫌いな私。
ましてや初対面なのに、不思議とマスターに拒絶心は抱かなかった。

よく分からないけど、マスターの瞳に私は吸い込まれるような感覚に陥った。