映画でしか観たことないような、大きな金庫があった。


 顔見知りの職人に特注で作らせたものである。


 その金庫の手前の床には細工がされており、何も知らずに踏むと命の危険にさらされてしまう。


 仕置き部屋に落とすか。


 それとも……。


 真は無表情のまま思案した。


 ふいに、実験の最初にアンケートを取ったことを思い浮かぶ。


 “一番苦しそうな自殺方法”に、少女は“餓死”と答えている。


 餓死……か。


 蛇の餌になるよりも時間がある分、絶望感が半端ないだろう。


 真は唇の端をつり上げ、不器用に笑った。


 そして、細工してある床を踏まないように金庫の扉を開けた。


 ギィ……


 軋みながら開いた金庫の中に、分厚い茶封筒が入っている。


 真はそれを手に取ると、代わりに少女をその中に閉じ込めようとした。



「いやぁッ! 何……何するのっ!?」


「お前専用の部屋だ。……狭いが我慢しろ」


「い、いやっ……お願いだから助けて! ねぇっ……お願いぃぃぃ!」


 少女が泣き叫びながら訴える。


 しかし、真は容赦なく少女の身体を金庫に押し込んだ。



「いやッ……怖い! 助け──」


 金庫の扉を閉めて、少女の声を遮断した。


 絶対に中からは開けられない。


 上部に空気穴があり、酸素を取り込めるようになっている。


 “ここから出してよぉおお……っ!”


 金庫の内側から、くぐもった叫び声が聞こえる。


 しかし真は無視して、茶封筒の中身を地面にぶちまけた。


 彼名義の通帳に印鑑。


 それに、何枚かの写真……。


 そのどれもに、母親と幼き真が笑顔で写っていた。


 幸せだった日々は儚く散ってしまったが──。



「運命には逆らえない……誰も」


 真は小さく呟くと、写真を革靴の踵で踏みつけた。


 ──もう沢山だ。


 過去に捕らわれるのは終わりにしよう。


 そして、真は無造作に転がる黒い物体に視線を移した。


 知り合いから入手した、本物の拳銃だった。