しかし、少女は小刻みに身体を震わせている。


 アイマスクをずらすと、涙に濡れた瞳と目が合った。


 捨てられた子犬みたいな顔しやがって。


 その瞬間、真は言葉に言い表せないほどの感情にギュッと胸を締めつけられた。



「……チッ!」


 忌々しげに舌打ちをすると、真は衝動的に少女の唇を塞いだ。


 少しカサついた、柔らかい感触に我を忘れそうになる。



「んっ……ふぅ……!」


 イヤイヤするように顔を振りながらも、甘い吐息を漏らす少女。


 欲望の赴くまま、温かく柔らかな唇を貪った。



「はぁっ……はぁ……」


 長い口づけから解放され、少女は頬をほんのり染めながら息を弾ませていた。


 その表情は美しくも艶めかしい。


 真にとって、これがファースト・キスだった。


 今までと言うもの、生理的な欲求を満たすだけだった。


 つまり、愛のない性行為の繰り返し。


 それでもいいから抱いて欲しい、という女たちは後を絶たなかった。


 ……このザマは何だ?


 木南杏奈と言う被験者の女に、俺はこんなにも心を掻き乱されている。


 それが愛なのか、嫉妬なのか、怒りなのか、憎しみなのか──分からない。


 二十年間生きてきて、初めての生々しい感情が溢れ出てきたのである。



「くそ……ッ!」


 真は苛立ちを露わにし、地面を拳で思い切り殴りつけた。


 手の甲の皮膚が擦りむけ、血が滲み出す。



「血……、出てるよ?」


 少女が囁くように言いながら、縛られた両手で真の右手をそっと握った。


 そして、舌先で怪我した部分をペロペロ舐めた。



「ッ……何しやがる!」


 真は驚いて声を荒げると、少女の頬を平手打ちにした。


 この女は……俺に媚びてるだけだ。


 生き延びたいが為に──。


 そう思うと、途端に憎しみが湧いてきた。


 少女を地面に押さえつけ、アイマスクをつけ直し、両手を後ろで縛り上げる。



「……この売女が。仕置きしてやる」


「ひッ……いやぁああ!!」


 少女の長い髪を引っ張りながら、真は部屋の中央を横切った。


 その視線の先にあるのは──。