真の目に映る彼らは、まるで汚れを知らない“白”だった。


 無邪気そのもの──。


 ……気に食わない。


 俺がこの手で、この世の地獄というものを見せてやる。


 この日、真は珍しく己の感情を制御できずにいた。


 そして、何の罪もない二人が彼の餌食となった。



「……という話だ。面白かっただろ?」


 久しぶりに長々と話した真は、若干の疲労を感じていた。


 目の前には、相変わらず俯いたままの被験者の少女。


 眠ってるんじゃないだろうな?


 ……だとしたら殺す。


 心の封印を解き放った今、真は奇妙な高揚感に包まれていた。


 少女の元へゆっくり歩み寄る。


 すると、少女の頭がゆらりと揺れ動いた。



「──先に逝ってごめんね、真」


「……!」


 真は一瞬ビクッとして歩みを止めた。


 頭から血を流しながら謝る少女の顔と声は、母親の断末魔を再現しているかのようだった。


 フラッシュバックに陥り、途端に息苦しさを覚える。


 落ち着け……!


 これは幻覚だ……、薬を飲み過ぎたんだろう。


 右手で額を押さえながら、真は必死に少女に手を伸ばした。



「おい、貴様……! ふざけた真似はやめろ」


「ねぇ、真。お母さん、一人で寂しいの……。早ク死ンデ?」


 口から血を流しながらニッと笑う少女──いや、母親は身震いするほど不気味だった。


 その瞬間、真は恐怖に駆られて少女の腹部を蹴り飛ばした。


 ガンッ


 音を立てて、少女の細い身体が椅子ごと後ろへ倒れる。



「うう……痛ぁ……ッ」


 呻き声を上げながら椅子から這い出す少女は、元の姿に戻っていた。


 やはり幻覚だったのだ。


 しかし、真は確信めいたものを感じていた。


 母さんが……俺を呼んでいる。



「ふっ……。どこまでも我が儘な女だ」


 真は皮肉混じりに呟くと、少女の腕を掴んだ。



「きゃっ! や、やめて……」


「何もしない。……皮膚が少し切れてるが、問題ないだろう」


 怯える少女の頭にわずかな出血を確認しながら、真は優しい声で安心させた。