それからと言うもの、真は以前のような明るさや純粋さを失い、生きながらにして死人同然の生活を送っていた。


 登校拒否が続き、部屋でボーッと過ごす無気力な日々。


 父親はそれに対して何も言わず、一人っ子の真を甘やかした。


 喋らない。


 笑わない。


 ──泣かない。


 真は自ら、人間としての感情を排除したのである。


 クリスマスが目前に迫ったある日のこと。


 会社から帰ってきた父親が部屋のドアをノックしてきた。



「真。入るぞ」


「……」


 真は返事をせず、ベッドに転がって漫画を読んでいた。


 今までは、漫画など興味が持てない分野だったのに、父親が暇を持て余している真のために毎日のように買って帰るのである。


 この日も、漫画の新刊を買ってきたとばかりに思っていた。



「真、商店街の駄菓子屋によく行ってたよな?」


「……」


 父親の言葉に思わず顔を上げる。


 駄菓子屋の老婆の笑顔が、真の頭に思い浮かんだ。


 そう言えば、もう何週間も顔を出していない。


 ……これから先も、行くことはないけど。



「あのお婆さんがな、先週末に亡くなったらしい。元々ご高齢だったし、倒れてから早かったと聞いたよ」


「……!」


 真の手から漫画が滑り落ちる。


 それを見て、父親が漫画を拾い上げた。



「店は閉めるらしい。近所に娘さん夫婦が住んでるから、葬儀は滞りなく済んだそうだ」


 ベッドの端に漫画を置きながらそれだけ言うと、父親は部屋から出て行った。


 ドアが閉まった後も、真は固まったように動かなかった。


『真ちゃんは優しい子だねぇ』


 クシャクシャの笑顔と朗らかな声が蘇る。


 おばあちゃんまで、天国へ旅立ってしまった……。


 大切な二人がいなくなったこの世に、もはや意味などない。


 翌日、真は数日ぶりに外出した。


 商店街に向かい、シャッターが下りたままの駄菓子屋の前で立ち止まる。



「芹沢……真くん?」


 ふいに、背後から遠慮がちな柔らかい声が聞こえた。