黒いランドセルを背負った小柄な少年が、商店街を駆け抜けていく。



「はぁっ……。こんちは、おばあちゃん!」


 息を弾ませながら、立て付けの悪い引き戸をガタガタとこじ開ける。


 椅子に座って新聞を読んでいた老婆は、少年の姿を見るなり皺だらけの顔をさらにクシャクシャにして笑った。



「はい、いらっしゃい。今日も元気だねぇ」


「うん! 元気、元気」


 少年は悪戯っぽく舌を出して笑うと、狭い店内に並ぶ駄菓子を物色し始めた。


 その様子をニコニコしながら見つめる老婆。



「いろいろ迷ったけど、今日はコレとコレとコレにする!」


 数分後、少年は両手に抱えた駄菓子を老婆に見せた。


 カレーせんべいと、コイン型のチョコレートと、ヨーグルト風味のグミ。



「このグミ、好きだねぇ?」


「うん。お母さんが好きなんだ!」


「そう言えば、里枝さんの具合は良くなったのかい?」


 老婆が心配そうに尋ねてくる。


 少年の母親と老婆は、軽く立ち話をする程度の顔見知りだった。


 最近体調を崩すことが多い少年の母親を案じているのだろう。



「昨日はずっと寝込んでたけど、今日は食欲も出てきたみたい。だから、コレをね」


 少年はニッコリしながら、ヨーグルトのグミを右手に掲げて見せた。


 お母さんの喜ぶ顔が見たいんだ!


 百円玉を手渡すと、老婆は飴をおまけしてくれた。


 少年はお礼を言って店を出る。


 途中、クラスメートから遊びに誘われた。


 少年は頷きかけたが、ふいに母親の顔が思い浮かぶ。


 お母さんが僕の帰りを待ってる……。



「ごめん、今日は早く帰らないと! じゃあね~」


 ランドセルを揺らしながら走り去って行く後ろ姿を見て、クラスメートは顔を見合わせた。



「あいつ、付き合い悪いよなァ……」


「金持ちだから、俺たちみたいな貧乏人とは遊びたくないんだよ」


 少年の楽しみが放課後に駄菓子を買うこととは知らず、彼らは妬み混じりの言葉を吐き捨てた。