目の前の黄色い椅子に座る少女を見つめているうちに、ふと真の脳裏に遠い過去の記憶が蘇ってきた。


 白いワンピース。


 艶やかな長い黒髪。


 少女の面影を残した、美しい顔立ち。



『──真』


 目を閉じると、自分の名前を呼ぶ優しい声が耳の奥に響いた。


 何故だ……?


 忌まわしき過去はとっくの昔に葬ったはずなのに、今になって洪水のように溢れ出してきた。



「ッ……」


 真は眉間に皺を寄せながら、掌で額を押さえた。


 心臓の鼓動が乱れて、息苦しさを覚える。


 煙草の先端がチリチリと燃えていく。



「……どう、したの?」


 ふいに、アイマスクをした少女が不安げに口を開く。


 その瞬間、真はカッと血走った目を見開いた。


 声まで、あの人と似ていた。



「……黙れ!」


「んんッ……!」


 真は苛立たしげに声を荒げると、少女の顎を掴んで無理やり口を開かせた。


 そして、短くなった煙草を彼女の舌に押しつける。


 その瞬間、ジュッと音を立てて火が消えた。



「ぎゃああぁあっ!!」


 少女は飛び上がるほど驚いて、縛られた両手を口の中に突っ込んだ。


 舌の一部が赤黒く爛(ただ)れ、火傷している。


 真は無表情に戻り、煙草を床に投げ落とした。



「ううう……ッ!」


 少女が両手を口の中に突っ込んだまま、不明瞭な呻きを漏らす。


 その取り乱した姿に、真は全身の血流がドクドクと沸き上がるほどに性的興奮を募らせた。


 もっと苛めてやりたい──泣き叫ぶほどに……。


 だが、高揚感はすぐに治まってしまった。


 髪を掻きあげながら、気だるげな溜め息を吐く。


 椅子の上で怯えたようにうずくまる少女。


 その姿に、昔実家で飼っていたトラ猫が重なった。



「……ふん」


 真は冷ややかな笑みを口元に浮かべ、腕を組んで再び壁にもたれかかった。


 膝を抱えて俯いている少女を見つめながらも、意識は“あの日”に飛んでいた。



「特別に、お前だけにとっておきの昔話をしてやろう。……ただし、眠ったら殺す」