監禁されてから一週間以上経つと言うのに、家族に会いたいという感情は湧かなかった。


 早く自由になりたいが、あの家には帰りたくない。


 私の居場所がないから……。


 杏奈は一点を見つめたまま、物思いに耽っていた。


 もはや与えられた自由は、思考することのみ。


 森耕太郎から差し入れられた菓子を少しずつ食べてはいるが、いつリーダーの男が姿を現すか分からない。



 ……喉、渇いた。冷たいお茶かジュースが飲みたい。


 杏奈は先ほどから喉の渇きを覚えていた。


 ビスケットなんか食べなきゃ良かった。



「あ~、ちくしょう……」


 苛立ち紛れに、小声で暴言を吐く。


 何だって私がこんな目に遭わなけりゃいけないのよ?


 今頃、世間は夏休み真っ只中だろう。


 悠介といろんなところに遊びに行きたかったのに……。



「……悠介」


 彼の顔を思い浮かべたら恋しくなり、杏奈は口の中で呟いた。


 考えれば考えるほど、自分にとって一番大切な存在は悠介なんじゃないかと言う気がしてくる。


 でも、彼はもうこの世には……いない。



「……!」


 ふいに扉を開ける音が室内に響き、ぼんやりしていた杏奈は弾かれたように顔を上げた。


 この荒っぽい開け方は、耕太郎ではない。


 ピエロか、もしくはリーダーか……。



「……」


 現れたのはリーダーの男だった。


 耕太郎によると、芹沢真と言う名の大財閥の御曹司。


 相変わらず気だるそうな雰囲気を漂わせ、ロックバンドのボーカルのようである。



「……飯の時間だ」


 芹沢真は短く言って、手にしているプラスチックの皿を杏奈の前に置いた。


 タイミングが悪すぎる。


 つい先ほど、ビスケットを数枚食べたばかりでちっともお腹が空いていない。


 しかし、怪しまれては困る。



「……ありがと。何かしら?」


 皿の中を覗き込むなり、杏奈は思わず顔を強ばらせた。