「奥さん、あのルージュは私のではございません。辰巳社長はその日、倒れた掃除のおばさんをおぶって医務室に連れて行ったんです」



大久保さんは必死に弁解して誤解を解こうと必死だった。



えっ?


倒れたおばさんを……おぶった?



「倒れたのは稲田さんと言って、60代の社内清掃員の方なんです。辰巳社長とは付き合いが長いせいか親子のように仲が良くて……お子さんの写真を見せながら、いつも楽しそうに話していました」



「ウ、ウソ……」



そ、そんな。


そんなオチって。


あたしが……勝手にカン違いしてただけだったんだ。



「稲田さんはいつも、真っ赤なルージュをつけていらして。とても良くお似合いでした」



「そ、そうですか……」



恥ずかしすぎてうつむくしかなかった。


あたしったら……本当にバカすぎる。



「それに私、来月結婚するんです」



「えっ?け、結婚……?」



大久保さんの顔を見上げると、とても幸せそうに笑っていて。


スッと平岡さんの隣に立つと、彼の腕に自分の腕を絡めたのだった。



「まさか、平岡さんと?」



「はい」