「辰巳社長の奥さん?」
下を向いて歩いていたあたしの耳に、聞き慣れた声が聞こえた。
「平岡、さん……」
「どうしたんすか?悲惨な顔して」
平岡さんはまだスーツ姿で、どうやら部屋に戻る途中らしかった。
「別に……何も……っ」
そうは言ってもなぜか涙が止まらなくて。
みっともないのは承知の上だったけど、平岡さんの前でたくさん泣いた。
「と、とにかく場所を移動しましょ?ね?」
そう言われてエレベーターに乗せられ、最上階にある夜景の綺麗なバーに連れて来られた。
「落ち着きましたか?」
「はい……本当にすみません」
あたし……平岡さんに迷惑かけてばっかだ。