「今日は出さねーよ」
そんな彼女にムッとしながら言うリュウ。
「そうですか。それなら安心です」
大久保さんはまったく怯むことなく、リュウにそう言い返した。
恐るべし社長秘書。
「俺は行くけど、あとでみんなに紹介したいから、適当に中でゆっくりしてろよ」
美久を下ろしながらリュウが言う。
あたしはリュウの言葉に小さく頷いた。
「じゃあ、いい子で待ってろよ」
そう言い残して、リュウは大久保さんと行ってしまった。
すれ違う瞬間漂って来た甘い匂いに、胸の奥がズキンと痛む。
「辰巳社長の奥さんっすか?」
入った瞬間、入口のところでひとりの男性に声をかけられた。
「あ、はい……」
そうですけど。
誰だろう?
まぁでも、会社の人に間違いないよね。
「営業部長の平岡です。今日は奥さんとお子さんの見張りを頼まれていて」
「え?み、見張り……ですか?」
「パーティー中、自分は付いててやれないからって」
爽やか風のイケメンな平岡さんは、部長だというのにまだ若そう。