杏奈が自分を好きになれるのは、ケータイ小説を書いている時だった。
願いを叶えてもらうなら、これに関することしかない。

「マリア様、きいてください。私はケータイ小説を書いています。最初は、クラスのどのグループにも入れず、そのさみしさを紛らわすために、書きだしたんですが、今は私の生活の一部となりました。
私が、輝いているのは、ケータイ小説を書いているときだけなんです。だからお願いします。私を人気作家にしてください! たくさんの人に読んでもらって、チヤホヤされたいんです!」

杏奈は、心の奥底に押し込めていた願望を、盛大に吐き出した。

すると、ズズズ……と10円玉が動く。

【はい】という場所で、10円玉が止まる。

その時、10円玉が光りだし、熱を持ったように急激に熱くなった。

おどろきと、指先の熱さで、思わず10円玉から指先を離してしまいそうになる。

「だめよ、指を離しては!」

強い口調で、光子が念押ししてきたので、すんでのところで思い留まる。

ズズズ……と10円玉が動き、マリア様がまだここにいるのだと、わかった。