「こ、こんにちは。私は、石森杏奈です」

杏奈は、とりあえず10円玉に向かって、お辞儀をしておいた。

ズズズ……と10円玉が、再び動き出す。

【ねがいごとをいいなさい】

えっ、もう願いごとをを言わなくちゃいけないの、と杏奈は慌てた。
勢いで、人差し指を10円玉に置いたが、肝心の願いごとを決めていない。

「さあ、マリア様に願いごとと、なぜその願いを叶えて欲しいのか、すべて告白して!」

光子は、舞台で演技をしているように力いっぱいに言う。

私の願い……。
杏奈は、そっと目を閉じた。

すぐに勇吾の顔が浮かんでくる。

勇吾が、私のことを好きになってくれるようにお願いしたら……。

そんな思いが、一瞬頭をよぎったが、一花と歩いている勇吾の姿を思い出し、首を横にふった。

勇吾が一花を好きで、幸せならそれでいい。

だって、勇吾が幸せなら、私も幸せだから。勇吾の幸せは、私の幸せなの。

杏奈は、そう思い、その願いを頭から消した。