様々なことを考えていると、居ても立っても居られず、右手の人差し指を10円玉に置いていた。

それを見た光子が、満面の笑みを浮かべる。

「私が、今から言うことと、同じことを言ってちょうだい。
マリア様、マリア様、どうかおいで下さい」

「マリア様、マリア様、どうかおいで下さい……」

緊張で、上手く回らない舌で、一生懸命に杏奈は言う。さらに光子は続けた。

「マリア様、マリア様、どうか願いを叶えて下さい」

「マリア様、マリア様、どうか願いを叶えて下さい……」

そう言い終えた杏奈は、ハッとした。

ズズズ……と10円玉が、動きだしたからだ。
人差し指には、まったく力を入れていないというのに。
興奮で、手のひらが、汗ばんできた。

「マリア様が降臨されたのよ」

手を合わせた光子が、キラキラと目を輝かせる。

杏奈は、固唾を飲んで、10円玉が示していく文字を目で追った。

【わたくしはマリア】

本当にマリア様が、来たんだ……。

どうしていいか、わからず固まっていると、「挨拶をして名前を言いなさい」と光子が、助け舟を出してくれた。