あの日……いじめられた光子が、トイレに隠れて泣いていると、辺りが冬のように寒くなり、さらに背後になにかの気配を感じた。

誰かいる。
光子がそう思った時、耳元が氷をあてられたように冷たくなり、ささやくような声がした。

『可哀想な迷える子羊よ……』

透明な湖のように、透き通った女性の声。
おどろいた光子は、絶叫していた。慌てて、辺りを見回すが、誰もいない。

しかし、さらにささやきが、きこえる。

『迷える子羊よ、あなたを使い人にしてあげましょう。手をひらいてごらんなさい』

光子は、はっとした。
ギュッと握りしめていた拳を、開くと四角く折りたたまれた白い紙があったのだ。

いつのまに⁉︎ と目を丸くした。

「〜山根、ここは立ち入り禁止だぞ‼︎」

春山の大声がきこえたが、光子は手のひらの紙を見つめたまま、動くことができない。

『それは、わたくしを呼びたすための大切な紙です。使い人となったあなたの願いから、叶えてあげましょう』