昼休み。
杏奈は、ひとり女子トイレで手を洗っていた。
水滴をハンカチでふいていると、手洗い場の鏡に、ニコニコ笑っている光子かうつっていたのでドキリとした。

「ごめん、おどろかせてしまったみたいね。あのね、私、石森さんに話があるの」

「私に話?」

痩せて、別人のようになった光子を前にしたせいか、なんだか緊張してしまった。
髪は艶やかで、肌も透き通るように白く、毛穴が見当たらないほどた。

「うふふ、そんなに警戒しないでよ。私ね、前から石森さんと仲良くしたいなって、思っていたの」

「あ、ありがとう……」

すると、光子がハンカチを持っていた杏奈の手を握りしめてきた。すべすべとした手だった。

「放課後、石森さんだけに話したいことがあるの。だから教室に残っていてくれる?」

光子が、ささやくように言ってくる。
その甘い声には、嫌と断れないような不思議な力があった。

杏奈は熱っぽい顔で、うなずく。

「約束ね。ふたりきりになった時に話すから……」

光子は、手をふり、去って行った。

話って、なんなんだろう。

杏奈は、まだ温かさの残る手のひらを見つめながら、ぼんやりと思った。