それは、
彼と私は結ばれることのない平行線上だから。
救急車のサイレンが耳を通り抜ける。
ゆっくりと私の体は重く痛く悲鳴をあげる。
それでも、目は開かずもう少し昔の余韻に浸りたい。
私は結局、彼には会わなかった。
会えなかった。
だけど、最後に見た彼の家の残像が
私にとっては最後の彼の姿だった。
大きくて静かに建つ家は
私と斗真の楽しい日々が綴られている。
消えることのない彼との思い出。
懐かしんでばかりの彼との思い出。
大好きな..........
ふわりと唇に衝撃が走った。
うっすらと聞こえる男の人の声に私の
耳は敏感に反応した。
だ.....いすきな智治の声。
だけど....大好きなのは...斗真。
どくんと波打つ心臓に、意識が朦朧とする私は、ただ目を閉じ
自分の心が出す答えを待っていた。
智治が好きな自分
斗真が好きな自分
「目を開けました!救急で手術室に運びます。空実さん!見えますかー?」
差し込む光。
無数の顔。
ガラガラとなる音は、おそらく私を載せているベッドの音。
腰の痛み。
「ぁ。」
「大丈夫ですよー。病院に着きましたからねー。今から手術しますんで、助かりますからね。落ち着いてくださいね。」
ぐるぐると頭が痛む。
私.......は、斗真のお母さんを殺しに行きたかった。
包丁を買って、私は演技までして斗真の家に行ったんだ。
理由?
斗真をあんなに苦しめた家族なんて生かして置けない。
そう思ったのに......なんで私は病院にいる?
どうして怪我をしている!
なんで......
私は斗真と離れているの?
私は
あのババアを殺せなかった?
なんで?斗真を助けてやれなかった?
どうして!なんで!
意識が薄れていく。
このままなんて...このまま何もしないなんて
こんなに好きなのに。
斗真のことこんなにも.....思っているのに。
どうして私はいつも、いざとなったら失敗する?