「この女の子 有名な女優さんだってよ!」
斎藤の隣で
ニヤリと笑った彼女を見た途端
俺は、意識が飛びそうになった。
空実。
なぜ君はここにいる?
あいつと一緒じゃないのは何故だ?
答えてくれよ。
どうして...、またごじゃごじゃになっていくんだ!!
何故!?
「.......く、くーーーーそっ!!」
意味のわからない
ぶつけ場所のない
怒りで俺の顔は悲痛な叫びをあげる。
は、は?
なんでだ?
息がうまくできない。
斎藤の後ろにいる彼女を見ようとすれば
心臓が痛くなる。
それでも....確かめなければ、
と
俺は顔を上げた。
......嘘だろ!?
俺は声を上げるより先に胸ポケットの銃を取り出した
「.......っ!?斎藤っ!!」
「なんだよー美人だからってそんな驚かなくたって」
何言ってんだ!
くそ、
危ないっていうのに!
俺は斎藤の体を突き飛ばした
「どけっ!!!!!」
このまま、俺が負けなんか許せない。
今やるしかないんだよ。
ぎらりと
光る刃物。
それを持つ彼女に俺は銃口を向けた。
撃たなければ。
ここで、撃たなければ。
バンっ
銃声が響き渡る。
少しして、また元の静かな住宅街に変わったとしても
俺の心は何も変わってはいなかった。
「ハァハァ....なんでだ。」
彼女をこの手で傷つけても
やっぱり.....
ピンクの気持ちが淡くのし上がってきて.........
どうしてだ?
彼女を愛おしく思った俺のこの心が
邪魔で邪魔で悔しい。
バサっ
涙がほおを伝ったと
同時に
彼女は視界から消えた。
「智治!?おまっ!おい!何してんだ!」
俺の元に駆け足で近づく彼に俺は
顔を背けた。
「.....黙れ。」
「何言ってんだ!発砲許可なんか出てないぞ!?しかもこの子は市民だ!」
何も分かってない。
お前みたいに可愛い子に鼻を伸ばしてるやつとは違うんだよ。
「分かってねぇーな」
「はぁ!?どうしたんだよ!?わけわかんねぇぞ」
苛立ちをあらわにする彼に対して
俺の顔はある方向に向けられた。
......刃物を持った彼女は
ピクリとも動かない。
赤い血が彼女のではない赤い足跡と交わる。
「斎藤.....殺されかけてたぞ。」
雪の上でこの場では使われなくなった刃物を指差すと、
彼は信じられないという目で俺と
倒れた彼女を見た。
「.....彼女は、この事件の被疑者だ。」
「はぁ!?」
ゆっくりと彼女の方へ歩みよる。
ぐらりと脳をえぐった感覚が
俺を襲う。
愛しい君の笑顔が脳裏に浮かんで浮かんで浮かんで
消えなくて。
喉の奥から湧き上がったコトバは
止めれない。
「好きだ。」
蓋を閉じるように滑らかに彼女のまぶたは閉じられていた。
透明感のあるその顔に
赤く色づいた唇。
右腕から流れるその血は
彼女の真横に押された足跡なんかよりも
もっと
もっと
綺麗で、
綺麗すぎる赤で、
「............な、にしてんだ。智治。」
俺は、ゆっくり彼女の唇にキスをした。
吸い取ってしまいたい。
この俺の訳も分からない感情も全て
綺麗にしてもらいたい。
元凶は君なんだよ?
君さえいなければ、
とっくに君を殺せた。