澄んだ彼の瞳が私を釘付けにさせる。
「...そのな、もう落ち着いてるし、そろそろ聞く時だと思ってた。」
山田さんは、私の七つ年上の26歳だ。
今年、刑事になったばかりらしい。
仕事は完璧にこなすし、上司にいつもついている。
だけど、私の前では別だ。
優しい笑顔で、勤務用語ではなくふつうに接してくれる。
私は、そんな彼にこの数日好意を抱いていた。
素直に好き。
これからも、彼と話して行きたいと切実に思った。
そして、この入院が終わっても会いたいと、会えると思っていた...。
「なんですか?山田さん?」
「その...だな、城田斗真って人、知ってるよな?」
どくんっ
一瞬息をするのを忘れた。
ざわざわと胸が音を立てる。
「...城田斗真......。」
「あぁ、みかさんが、あの時大声でその名前を叫びながら空実さんを刺したとみかさんのお母さんが証言しているんだ。」
気がおかしくなりそうだ。
事情聴取用の手帳を片手にした彼の心配そうにする顔が、余計胸を締め付けた。
「...斗真は私とは......ただのおさななじみで...」
言葉が詰まる。
斗真。
好きだった相手。
その人の名前が、数年経った今
刑事の手帳の中に刻まれている。
「...そうだよな、だけどみかさんとは何の関係もないんだよ。
みかさんの親友の幼なじみってだけでどうして、あの時名前が出たのか、よく分からなくてね...」
「ぇっと...私も、わ、わかりません。」
だよなー。っと呟いた山田さんは、手帳に手掛かりなしと書き込んだ。
ふいに、真剣に仕事に取り組む彼に見惚れてしまう。
そして...、斗真のことも、過去のことも完全に忘れることができるような気がした。