好き。
どうしよう、好きすぎてどうにかなっちゃうくらい好き。
「おはよう、空実」
2月14日
「おはよう。みかー」
明るく挨拶をする。
この子は親友のみかで、私のことをなんでも知っている。
「はい、今の心臓の鼓動はどのへんですか〜?」
ニヤニヤした顔つきのみかが朝から豪快に飛ばしてきた。
手で作ったエアーマイクを私の顔の前に差し出す。
「ど、度緊張です。ピークです。」
まるで、棒読みのように言うが口元がにやける。
「気にしてない風にしてて本当は気にしてますね〜その顔!」
「みかっ!」
「一大イベントですよね〜、空実さんっ!
おっと、そろそろあの方が、お越しになるのでは〜。」
ちょ、ちょっとやめてよ。
体が熱くなる。片手に持った紙袋。
そこから顔を出す、
ピンクのリボンでデコった小さな箱。
私の
大好きな
彼へ。
そう、今日は
バレンタインデー。
「おうっ!斗真おっはよ〜」
教室に入ってきた彼に対し
クラスメイトがはなった言葉でビクつく体。
「おはよう。」
少しだるそうに挨拶した彼の手元には、おそらく靴箱でもらったのか、はたまたロッカーにつめこまれていたのか
「大量のチョコだね〜」
「ひゃあっ!!!」
耳元で囁いたみかに驚く。
「その反応、面白すぎる!」
「や、やめてよ〜もー」
けらけらと笑うみかをよそに、ちらりと彼の方へ目を向ける。
........かわいいチョコだらけ。
キラキラにデコレーションされた箱たちが彼の手にも机の上にも積まれている。
それを羨ましがった男たちが彼をからかったり。
「斗真なまいきだよ!!」
「うるさいなーお返しするのも大変なんだぞ!」
「うわっ!毎年もらってなきゃわからない発言きたーーーーー!」
「おいっ!」
一人の男の子が、そう言いながら彼のチョコを彼の手から奪った。
そうなると始まる、彼と男の子の追いかけっこ。
........私以外の女の子からもらったチョコ一つで、ムキになって追いかけっこしてるんじゃないよ。
なんて思ってしまう。
ドクン
静かに心臓が音を立てた。
「ちょ、男子らやめろってー!」
見かねたみかが止めに入る。
「おい!みか!俺たちにくれよ、チョコっ!王子だけずるいよー」
王子...と言うのは
彼のこと。
『王子』なんてあだ名が付いているのは
言うまでもなく
彼の美貌とやらで
金融会社に勤めるイケメン父と
美貌が眩しい女優が職業の美女母
から生まれた正しくおぼっちゃま。
私は、そんな彼を小さい頃から知っているんだと
みんなに自慢したいくらい
彼は人気者で
知的で運動神経良くて
頭は馬鹿だけど
そこもいいってやつで、
とにかくカッコイイ。
ドクン
また、鼓動が波打つ。
なんてことを考えて、
ふと我に返ったとき
血相を変えたみかが
「...あっ!危ない!」
と叫んだ。
とっさに、
後ろを振り変える...
ぇ?
ドシンッ!
鈍い音が教室に響く。
「いってぇー」
「っ!?
.........斗真っ!?」
どうやら、彼は追いかけっこに夢中になって男の子と罵声を浴びせあってるうちに私に気づかずに突進してきたのだ。
いわゆる、私が床に背を向けて、彼も私に背を向けている状態。