「…結ちゃん」



異様な光景に思わず結ちゃんを見上げると、小さく笑って彼女が前に出る。
 


いつの間にか結ちゃんの手にはいい感じの長さの木の棒が握られていた。
 


え、ちょっとやばいよね、それ。だってRPGの最初の武器にも出てくるけど、やっぱり最初の武器って入手に金のかからない木の棒なんだと思うけど、今私たちの周りの人たち明らかに刃物をもってるよ、鈍器をもってるよっ。明らかに武器のレベルが違いすぎるよっ。



じりじりと包囲網をせばめてくる相手方。
 


私はどうすればいいかわからず、しゃがみこんだままじっと結ちゃんの背中を見つめる。
 


緊迫した空気を遮るように、先に動いたのは向こうだった。
 

おお、と気合の入った声を上げて、結ちゃんにむかって押しかかってくる男。


「っ」
 

思わず目を瞑ったが、耳に届いた鈍い音と呻き声は男のものだった。
 


周りの空気がわずかにかわるのがわかる。
 


恐々ゆっくりと目を開こうとした瞬間、気合のこもった声と鈍い音が何度も何度も重なって耳に届いて目を開くことができなかった。
 



しばらく目をぎゅっと閉じて縮こまっていると、



「椎名、もう大丈夫ですよ」



結ちゃんの声が静かに届いてやっと目を開けた。