結香のことになったらバカだよ。


だって、俺は結香に嫌われたくないし必死にもなるって。


涙目で鼻を真っ赤にした結香が、俺の胸をそっと押して呟く。


「よけて…?そろそろ行くから…」

「ヤダ。結香がほんとのこと話してくれるまでよけない」

「はぁ?なんのことよ」

「……愛理に余計なことされてるだろ?」

「さっ、されてるわけ……」


口ごもった。


愛理が、絡んでるんだな?


とうとう結香にまで火花散らせるようになったら終わりだ。



俺は結香の方が大切だから。


「ごめんな……。結香に一番近い存在なのに気付いてやれなかった」

「大丈夫だから!はいはい、よけた」


するっと壁と俺の間から抜け出して教科書を拾いに行った。


はぁー………やっぱ幼なじみってめんどい。



「じゃ、またあとでね。橙磨」

「もう行くの?」

「授業に遅刻しちゃうでしょ?」

「真面目だなぁ〜結香」


ヒラヒラと手を振る後ろ姿を今は眺めるだけで精一杯だった。


“幼なじみ”って肩書きは、どんな感情を持っても消えない。