「殿下、おそらくこちらかと」


「ああ…」



一行の先頭を進んでいた茶髪の男が振り返り、背後の男に声をかけた。


声をかけられた男は日にすけるような金髪をひるがえし、小屋に近づいた。

中からは物音もせず、人の気配はしない。だが、いないならいないで疲弊した体を休める空間として利用できる。

男は一度小さく息を吐くと、小屋の戸を叩いた。



「……」



返事はなかった。


男が振り返ると、茶髪の男が頷いて男をさがらせる。

腰に下げていた剣を抜き、茶髪の男は他の連れを見回した。
一行は全部で五人。男を除けば、茶髪の男を含めて四人。


茶髪の男を先頭に剣を抜いて左右に二人ずつに分かれると、茶髪の男がドアのノブに手を伸ばした。



ゆっくりとノブを回し、ドアを開く。



「……」



中に入らず、左右に控えたまま四人は外から中をうかがう。






中には誰もいなかった。


粗末なベッドが奥に一つと、中央に木のテーブルとイスが三脚並んでいる。テーブルと反対の奥に収納用の棚があり、入って右側の壁の中央に暖炉がある。冬を越せるようにということだろうが、この森で冬を越そうという奇特なものは、おそらく存在しないだろう。



三秒待って、茶髪の男の合図で四人は一斉に中に入って背中合わせに四方を睨んだ。





しかし、特に何も起こらない。