誘拐まがいに連れられたカーズがそこについたのは、昼過ぎだった。


とはいえ天候は生憎の曇り空。それが前方に広がる白亜の城を、より一層鬱屈した石の塊に見せていた。


王都にたどり着いた時から感じられたが、王都全域に呪の気配が満ちていた。

呪が満ちてる状況というのは、端的に言えば笑い声のしないしけったマチだ。そこに疫病やら何やらが混ざって、王都はとても豊かな都市とは言えない有様だった。

王城すらその様子が垣間見られるというのは、末期に近い。



カーズはひっそり重い息を吐く。荷物に突っ込まれている獣が、それに気づいて楽しげに揺れる。





カーズを囲うように歩く集団が城門に差し掛かると、一行を迎えるのを待ってましたとばかりに白いスカーフを首に巻いた髭面の男と、がっちりした熊のような体格の騎士が頭を下げる。それにつられるように、周囲の兵士や召使たち――その場にいた城に仕える者たちが頭を下げる。



「ルギウス殿下、よく戻られました」


「ああ、留守をすまなかった宰相。兄たちはどうだ?」


「未だ呪からは解放されておりません。将軍閣下も先日――」


「そうか」



沈鬱な面持ちで告げられた言葉に、ルギウスはただ一言返す。


それから、一歩右に避けて背後にいたカーズを示す。



「こちら解呪師殿だ。きっとこれで、皆助かる」



王子を囲う王城の人間が、おおと救われたような声を漏らす。


カーズはただその様子を見つめながら、過度に背負わされる期待に辟易した。



(まだ、呪の詳細すらきいていないというのに…)



絶望的になりつつある状況において、この王子は覚悟を決めてしまったようだ。


なんとしてでも、カーズに呪を解かせると。



あの森で煽るような言葉を言ったのは、失策だったとカーズは密かに反省する。