小早川君は、私の言葉に目を見開いた。

「それから、親戚の人たちが私の事で話し合って、私のお母さんのお姉さんである、莎々原奈々美さんの家に引き取られたの」

「でも、それなら……」

「私が今住んでいるあの家は、この町にいた時に住んでいた家。だから、表札は花崎なんだよ」

私の目には、いつの間にか涙が浮かんでいた。

こんな話をしたのは、小早川君が初めてだった。

もちろん、二人は私の事情は知っている。

だから、二人も私の両親のことや前の学校のことは聞いてこない。

それは、私に気を使っているからだと思う。

涙を拭う私の姿を見た小早川君は、優しく髪を撫でてくれた。

「ごめん、莎々原……。辛いこと思い出させて」

「ううん、いいの。ずっと誰もに話せなくて、ちょっと苦しかったから。小早川君が話を聞いてくれたから、気持ちが軽くなったよ」

でも、まだあの事は話せなかった。

あの事だけは、まだ話せる勇気を持てない。

「いくら気持ちが軽くなっても、莎々原。震えているぞ」

「っ!」

震える私の手の上に、小早川君はそっと自分の手を重ねた。

「こ、小早川君!」

それを見た私の頬が、どんどん熱くなっていくのを感じた。