「じゃ、そろそろ課題やっちゃわないとねー」
「あ、そうだ、分からないとこあるから、このあと少しいい?」
「もちろーん!」
ブイサインを突きつけるタカは、いつも通り元気だったから、少しホッとした。
タカが階段を登って、俺もそのあとに続こうとすると、
後ろから名前を呼ばれた。
園長先生が片手をあげて手招きしている。
「隆也くん、ちょっと来てくれる?」
「はい、あ、今ですか?」
「そうよ」
何か手伝いかな。
園長先生とタカを交互に見ると、タカが先に口を開いた。
「じゃ、部屋で待ってるね」
その言葉を聞いてから、俺はもう一度一階に降りた。
園長先生のあとを着いていくと、客間についた。
客間の手前で足を止めると、俺の背中に園長先生が手を置いて、軽く押した。
そのまま、客間に足を踏み入れた。
客間には、一人の男性が座っている。
「やあ、」
自然に笑みを浮かべるその男性を見て、一番初めに持った感想は、
すぐにこのあと起こることを示唆できた。
この男の人は
母さんに
よく似てた。
「初めて会うのよね、貴方のお母さんの弟さん。貴方の叔父さんよ」
「木野真です。ごめんね、急に来て」
「………」
引き下がろうと、足を後ろに動かそうにも、
園長先生に手で押さえられて動けなかった。
なんで、今さら、こんな人が来るんだ。
まさか
もう、母さんが…
「怖がらないで、姉はまだ君とは暮らせないから。
君は、俺の家に来るんだよ。
仕事の都合でここに預けさせてもらっていたけれど、仕事も落ち着いたから、
近々うちに住むことになるからね。遅くなってごめんな」
「なに…それ…そんなの…」
「よかったわね、隆也くん。叔父さんが迎えに来てくれて」
すっかり、忘れてた。
そういえば、そうだった。
楽しすぎて、この生活から離れるなんて、考えられなかった。
目を、
そらしていた。
「二人住めるように、引っ越してしまって、学校が変わってしまうんだけど…ごめんね」
「あの、俺、いいです。ずっとここに、居たい」
「あらやだ、ダメでしょ?そんなこと言っちゃ。あなたはもとから叔父さんのお金でここに預けられていたのよ?
ちゃんと、帰らないとダメよ」