「ただいまーーーー!!」


しばらくするとドタバタとたくさんの足音が響いてきて、急に隠れなくてはという衝動に駆られてカーテンの裏に隠れた。

…なにしてんだか。

この家は今は俺の家なんだから遠慮なんかいらない、どんと構えて居よう。


だんだんと静まっていく子供達の声。

最後の一人の声もなくなってから、俺は部屋を出た。
もちろん、タカに会うために。


目的のドアの前に立ったはいいけれど、どうしたものかなかなかドアを開ける勇気が出てこない。


なんて切り出したらいいものか。


俺を覚えているのはたぶん確実だろうけど、あっちが会いたいと思っているかというとそうでもないだろうことはあの反応からも伺える。


完全にあのとき目を反らされた。


…どうしたものか。



このドアの先に彼女がいるはずだ。

用があるなら開けていいに決まってる。

…けどなぁ~…



あのとき、人見知りの俺があんなにペラペラ喋れたのはああいう状況にいたからであって

いつもあんなに喋るほうではない。

それどころか母さん以外とは話すことさえほとんどなかったほどだ。



それは、自分が他人から好かれないからに違いなくて。

夜に仕事に出る母さんのことをバカにされて、二日同じ服を着ていくだけで菌扱いされた。

それから、俺は他人に対して悪態ばかりつくようになり、男子のガキ大将と殴りあいの喧嘩に勝ってから完全に誰も寄り付かなくなった。

挙げ句の果て、問題児のレッテルを貼られた。



そんな、俺が、



今更友達なんか作ろうとして上手くいくだろうか。

いや、友達なんて、そこまで望んでない。



ただ、話したい。

ありがとうを言いたい。



あの日からほんの少しだけ

世界が色がついて広くなったんだ。



それを、伝えたい。



意を決して、ドアのぶに手をかけて、ひねった。
入ってしまえばなんとかなる。


そう思った。


けど、
そう簡単にはいかないわけで。