「そんなこと…ないよ。ただ席が近くて…キノと、知り合いなだけ」

「キノと?そうだったのか?」

「話して…なかったよね。アザミくん、マヒロくんの中学に転校してくる前の知り合いらしいの」

「ああ…初めて聞いたよそんなの。」


アザミくんが転校してきてからも、マヒロくんとキノは本当に会っていなかったから、当たり前と言えば当たり前かもしれない。

キノが川に飛び込んだこと、マヒロくんもマヒロくんなりにどう接すればいいのかきまずかったんだろう。

マヒロくんの嘘が発端だったんだから。


そうだ。



私は、ずっと、マヒロくんに言っていなかったことを言わなければいけなかった。





「マヒロくん、ずっと言いたかったんだけど、キノが川に飛び込んだとき、キノを助けてくれてありがとう」

「…え?」

「言ってなかったから、私はあのとき、膝が言うこと聞かなくて何も出来なかったもん」

「いや、そんな…あれは元はといえば俺が悪かったわけだから、当たり前で、
お礼なんて言われる資格ないから」

「……」


ほら、また嫌な気持ちになる。

マヒロくんが嘘なんかつかなかったらって、どうにもならないことを何度も何度も。

どうにもならないわがままなことを考えて、優しいマヒロくんをこんな風に思ってしまう自分が一番腹立たしい。


なんでこんな気持ちにならなきゃいけないの

最低で、最悪で、醜悪な気持ち




私は、こんな人間だったかな。



私は、もう、いやになりそうだ。





「高橋さん…?」

「あ、ご、ごめん、…ちょっと出てくれる?顔がやばいことなってて」


やばい

今絶対気づかれた。
変な顔してた。

私は顔を下に向け、手で顔を押さえてマヒロくんに背を向けた。

悪くない人を自分の都合で責めるひどいやつの顔だった。


私は、なにを考えているんだろう。

自分が嫌い

許せない


マヒロくんのせいなんかじゃない



私は、

私は、ずっと、



キノのことを知っていたにも関わらず、関係を壊したくなくて、ずっと逃げてきたから、


もし、キノと、きちんと話をしていたら


もっと違う結末があったかもしれない。



それを壊したのは、

何も出来なかった自分のせいなのに。




「……あのさー…、俺、高橋さんのこと好きだよ」


居なくなっていたと思ってたマヒロくんの声が真後ろから聞こえてきた。

静かな水場に落ちる水滴の音が響いた。

反響したマヒロくんの声を
耳に聞き入れたとき

思わず顔をあげた。

顔をあげて1秒後、それはネガティブな私への慰めだと受け入れた。

一瞬でも勘違いした私をどうか消えてください。