「…なんで泣きそうなの?」
「別にそんなことは、」
袖で目をごしごしと擦ると、袖が黒くなってギョッとした。そういえば、今日は軽く化粧をしてきたんだった。お母さんがあんまりうるさかったから…
てことは
今顔絶対やばいじゃん!
「高橋さん?」
「あ、ちょ、あの、…化粧が…」
「あ…取れちゃった?あっちトイレの水場行ってきたら?鏡あったきがする」
「う、うん」
顔を隠しながら向かい、とにかく化粧を落とした。
慣れないことするからこんなことになるんだ。
化粧の道具持ってきてないし、最悪だ。
マヒロくんが鏡に映りこんだので、慌てて私は顔を下げて顔を洗い続けた。
「高橋さん、今日は化粧してたんだ」
「軽くね、お母さんがどうしてもしてけっていうから」
「なんかいつもと違うって思ったんだよね。」
化粧はやっぱり偉大らしい。
けど、化粧でかわいくなるほど、本物とかけ離れるところが悲しい。
変われば変わるほど、本物が劣るということなんだから。
化粧をしたとき、少し綺麗になったことでさえネガティブにとらえてしまった。
最近の私はずっとそんな感じ。
化粧が落ちたことも、人生が終わるみたいに悲しかった。
化けの皮を外されるような気分。
「高橋さん元がいいから、化粧、よく似合ってる」
「…そういってくれると嬉しいかな」
どう考えてもフォローな台詞を聞きながら、顔を拭いた。
そういえば、キノが居なくなってからキノの話をマヒロくんとしていない。
特に改まってする理由もないけれど、キノがいなかったら知り合わなかっただろう人だし、マヒロくんがどんな風に思ってるのか聞いてみたかったりする。
まあ、聞かないのだけれど。
「高橋さん、まさかアザミとなにもないよね」
「え!?あ、アザミくん?」
突拍子もないマヒロくんの言葉に久しぶりに大きな声を出してしまい手で口を押さえた。