「あ、高橋さ………?」

「マヒロくん、おはよう」



二人で他愛ない会話をしていると、マヒロくんが到着したようだ。

エリちゃんはまだこない。リンゴ飴の列が行列らしいな。


「あ、マヒロくんだー」

「………?あれ?アザミって来んの?」

「あー、いや、えーと、さっき…」

「いいじゃん別にー、俺とフユは仲いいもんねー?」



飛び入り参加だよーという言葉を遮られ、アザミくんがそういって手のひらを握ってマヒロくんの前に突き出した。

映画見た仲だとは言ったけれど…
なに、このわざとらしさは。

とりあえず呆れ笑いでも、と適当に笑っとく。


「俺いたらだめ?」

「とりあえず高橋さんに触んのやめたら」


ペシッとアザミくんの手を退かしたマヒロくんは私の手を引っ張った。

驚いて声をあげようとしたけれど、マヒロくんの声に遮られた。


「俺の方が仲いいから」


そのままマヒロくんは人混みの中に私を連れて入り込んでしまった。

人、人、人、で押し潰されそうになりながら人が流れるように歩いてる道を横行していく。

なんか、また思い出してしまった。


前にもマヒロくんに腕を強く引かれたことがあった。

今思えば、もし、もしも、あの日マヒロくんが私の手を引くことがなかったなら、

キノが川に飛び込むことも、

キノのことを深く知りたいなんて思うことも、

キノと別れることも、



無かったのかもしれない。



マヒロくんのせいだなんて、
そんなことは、思わないけれど、

どうしても、考えてしまう。

もしあのときなんて考え出したらきりがないことくらい知ってる。

今あるものが全てだってことも知ってる。

だけど



どうしても、どうしても、



あの日が無かったら


そう考えては


後悔してしまう。




「………高橋さん、ごめん、痛かった…?」


いつの間にか、人混みから離れたところに来ていた。
近場の公園の様なところで雪は綺麗に除雪されて、人が入れるようになっている。

涙が落ちそうなのをぐっとこらえていた。

こらえないと、なにか、マヒロくんにひどいことを言ってしまいそうな気分だった。



「…大丈夫」