「えー、知っている人も居るかもしれませんが、木野くんは、おうちの事情で今朝に引っ越していきました。
クラスから一人減ってしまった訳ですが―――」
ざわめく教室。
いつも私の視界の遥か右斜め前にいたはずの背中が消えて
空席が、一つ。
全然知らなかった。
キノが引っ越したなんて。
そりゃそうか。
知ってるわけない。
私のなかではもう居ないことになっていたんだから。
情報も入ってこない。
そうか。引っ越したのか。
そうか。
別に、何を感じるわけでもなく、乾いた心にはなんの気持ちも沸き上がらなかった。
いや、また
真っ白になったのかな。
朝のSHRが終了すると、前の席がガタンと音をたてた。
「フーちゃん、…どういうこと?」
「わからない」
「そんな、こんないきなり…全然知らなかったし…」
「そうだね」
「そうだねって…、フーちゃんは気にならないの?」
気にならないと言えば、嘘になる。
だけどそれはもう
「私には、関係ないことだから」
「…やっぱり、別れたんだね」
「うん」
「…そか」
キノと話さなくなってから、ずいぶん経った気がする。
だからもう、キノのことで悩んだりしない。
だけど
真っ白になったあと、胸のなかが動揺で埋め尽くされてる私に気づいた。