「赤信号だね」


出来るだけ自然に言ったつもりが、声が上ずってしまった。
キノも震えた声で言葉を返す。




「タカがいたら進めない」

「私のせいじゃないよ」


「俺、3年前からずっと、同じ時間で止まってるんだ」



キノが赤信号を見つめた。
私はキノの顔を見上げ続けた。

今にも落ちそうな涙はそうすることでなんとか押さえられていた。



「タカの、せいじゃないのはわかってる。

俺が、悪い。全部悪い」


「そんなこと」



青信号に変わった。

止まった時間が動き出した。
みんなみんな歩き出したけれど、私とキノは、止まったままだった。


キノがそのときやっとこちらを向いた。

顔がこわばっている。

今度は私が顔を背ける番だった。

けれどキノはそんなことには構わず、私に言った。





「ごめんね、俺ずっと、タカを騙してた

全部嘘なんだ」



いざ、キノの気持ちを知らされるときがきたとき

私は耳を塞ぎたくなった。
そうでないと我慢していた涙がこぼれてしまいそうだった。


キノが握っている手がゆるまると
自然にほどけた手は、あっけなく落ちていった。



「俺が、好きなのは

タカラ、だから、」


「うん。知ってた」


「そっか」


「全部知ってた」


「…うん」