バスにエンジンがかかる音がすると体がガタンっと揺れた。
走り始めるバス。
キノはまた黙ったままだ。
たまにちらっと隣を見て様子を見るけど何度見てもキノの様子は変わらなかった。
カモシカ見たよって言いたいけど
なんでか言えなかった。
キノの無言に私も付き合った。
そうするとだんだんと睡魔に襲われてきて、がくんがくんと頭を落としたり持ち上げたり。
疲れたな、眠い。
そうしていると
肩に重みが感じた。
目だけで肩を確認。
キノの柔らかい髪が首をくすぐった。
すーすーと寝息をたてながらキノは私の肩に頭をのせていた。
朝早かったもんね。
私はキノを起こさないようになるだけ動かないようにした。
キノの息がかかってくすぐったいけど、あったかくて、可愛くて、愛しくて、
今すぐに頭を撫でて抱き締めてあげたいけれど起こさないように我慢した。
私も寝よう。
肩に愛しい重みを感じながら、私は目を閉じた。
私は昨日までの不安が嘘みたいに全部消えていた。
時間のせいかもしれないし、キノが、また普通に話してくれたからかもしれない。
とにかく、きっと大丈夫だろうなんとかなると信じて疑わなかった。
例え、キノが
今まで私を誰かと重ねて見ていたのだとしても。
思っていた。
そのときは思っていた。確実に。
それなのに
私はこの先、キノが、私の名を呼ぶたびに苦しくなっていくだなんて
思ってもみなかった。