林の広がる草むらがそんな音を立てた。

だ、誰かいるの。

私はどきどきしながら振り返って絶句した。

目玉が飛び出るとはこのことか。

それくらい目を大きくした。




白い霧の中に大きな体が見えた…。




あちらもぴたりと体の動きを止めてこちらの目を凝視している。
大きな角に、恒温動物らしい毛が生えた…、



なんだこれなんだこれ



私とそいつの間に不思議な時間が流れる。

見つめ合うこと数秒

私はそれがキノが言っていたカモシカなのかもしれないと気づいた。



どうしよう、あ、そうだ、願い事…別にそういうんじゃなかったんだよね。


見れたらラッキーなんだし、私ついてるな。


そうだ、とりあえず祈っとこう。



私はお参りするみたいに手を合わせてお辞儀した。



「キノが、幸せになりますように」



その声は届いたのか届かなかったのか

そいつはゆったりゆったり歩いてまた霧の中に消えていった。


朝からすごいものを見た。

きっと三文以上の価値はあっただろう。


私はしばらくカモシカが消えていった霧を見つめて、テントに戻った。


まだ誰も起きていない。


寒いからだを寝袋に押し込めてぼーっとした。

長い長い時間ぼーっとしていたら、隣のエリちゃんがごろごろごろーっと転がってきて「ぐえっ」と声を出した。