キノは私を私のテントの前まで連れていくと
一度だけ軽く額に唇をあてながら私の体を包んだ。
「……タカは、聞いたの」
穏やかな口調で、その質問が再び私に向けられた。
私は、もう嘘をつくのをやめることにした。
私の下手な嘘はすぐばれる。
嘘ついてばれてまたキノの信頼を失うなら
私は、もう嘘はつかない。
大丈夫、大丈夫
私の気持ちをちゃんと伝えればきっと、わかってもらえる。
「聞いた。ほんの少しだけだけど。
でも、大丈夫。私は、そんなことでキノを手放したりなんかしないから
キノが私を嫌いにならない限り
絶対に…けほ」
語尾の咳どうにかならないかな。
いい台詞なのに決まんないし。
それでもキノの目をじっと見つめる。
キノは悲しそうに口を歪めて、迷うように眉を寄せた。
だけど、軽く頷いて笑った。
「うん、」
「今日はもう寝よう。キノも疲れたでしょ?
テントに戻りなよ。あ、虫とか入れちゃダメだからね。
あと夜は冷えるからちゃんと防寒して寝るんだよ」
「うん、タカも風邪、気を付けてね、あと、」
「うん?」
「大好きだよ」
耳元にキノの唇があたった気がした。
小さな声で、まるで内緒話をするみたいに
キノは私の耳にその言葉を残して自分のテントに戻っていった。