「…タカ?」


「へ、」


間抜けな声が出た。

それと同時にアザミくんの手がスルッと頭から落ちた。
声の主に私は目を丸くした。
私をタカと呼ぶ人は

ただ一人しかいない。



「なにやってんの、こんなとこで」



暗くてもわかる。
低い、掠れた声色がそれを示していた。

慌てて私はキノに駆け寄った。

誤解だけはさせない。させたくない。



「ここら辺でハンカチ落として、探してたらアザミくんがたまたま来てくれただけだよ、ね」


運よくポケットに入っていたハンカチを差し出しながら言う。
我ながらいい言い逃れ。

いつも嘘をつくのは下手だけど
なぜか今は頭が回った。

だけど

相変わらず合わせられない目はすぐキノにばれる。




「嘘つき」


「え」


「嘘つくなら目くらい見ろよ。
すぐ、わかる。タカなら特に」


「あ、う、あっ、と、あのー…けほ」



いつも"本当?"って聞くキノに初めてはっきりと嘘だと言われた。

私はすぐ後悔した。

それから何かうまい言い逃れを探したけど
真剣なキノの目を見てそれが出来そうもないことがわかった。


なすすべを無くしてうつむいていると


キノから沈黙を破った。





「何を聞いた?」


「何って、」


「アザミに、何を聞いたの」



まるで警察の尋問だ。

受けたことないけど、
きっと、尋問される罪人はこんな心持ちなんだろう。

嘘をついてやりすごしたいけど、
下手な嘘をつけば追い詰められる。


追い詰められたらもう言葉がうまく出てこない。

色んなことを考えようとしても、だんだんと頭は真っ白になっていくばかりだ。

泣きたくなる。