「ひどいわ、お母様たち、本当に行ってしまった…

私だって舞踏会に行きたいのに、ああ、なんてひどいのっ、」


それはまるで花のように


淡々と連なっていたセリフに彩りをつけるような


そんな際立った存在にみんな息を飲むようだった。



「こら、間あけない!七瀬さんのあといつも開くよ!」


その気持ちはわかる

一瞬でその場の空気が変わるのを肌で感じられほどに
七瀬さんの綺麗で儚い声にみとれてしまう。


演劇部でもないのに

やっぱりなんでもうまくやってしまう人はいるものだ。



場面は進んでいき

シンデレラは魔法使いに出会いカボチャの馬車でお城に向かい

王子に出会う。



「初めまして、どうぞよろしくお願いいたします」


七瀬さんのいじらしい声が聞こえると

皆が息を飲むのが聞こえた。

台本に目を落とすキノを

皆が一瞥した。




「なんて、お美しい

初めてお目にかかりました。
あなたはいったいどなたなのですか」



いったい

誰の声だと思った。


え、キノ?

キノ!?



「え、」


つい口にもれた感嘆

なに、今の

キノなの?

キノが話したの?



「どうか一曲私と踊りませんか、お嬢さん」


「ええ、もちろんですとも」


なんだ

キノもか。


やらせたら大概うまくやるやつ。

キノはそんなやつだった、あまり普段アホだから忘れかけてた。



「高橋さん!セリフ!」


「すみません!お、王子様ー、わ、私とも踊りませんですか」


「セリフちょっと変だよー」


「ごめんなさい…」



なーーーんだ


私なんかより
よっぽどキノのほうが器用にこなしてるじゃん。


心配して損した。

キノの心配より
自分の心配しなきゃならないな私は。