自由すぎて不安だと思ったのは最初だけで
今はあまり思わなくなった。

キノは今まで通りに自由にさせてあげたい

そう思ったから。


私はそれに笑っとけばいい。

何があっても深くは考えない

それでちょうどいい。


キノの王子役
楽しみにしておこう。

いったいどんな気だるい王子が出来るのか見守るのも一興だ。


そうして一日の授業を終えたあと
文化祭の準備が開始された。

予定だと夏休み中は土日以外の午後から練習をするらしい。


今日は台本を渡され、とりあえず読んでみようということになった。


役者の人達が空き教室に集まると
さっそく読み合わせが始まった。


「最初は意味を追うぐらいでいいんで、声だけはちゃんと出してくださいね」


演劇部の吉田さんがしきってやっていくようで

やっぱり一人経験者がいるといないじゃ心強さが違う。


キノ、ちゃんと言えるかな

隣で台本を見つめるキノ

ちゃんと集中してる?


全然違うこと考えてるんじゃないの。
自分のセリフわかってる?


「高橋さん、次高橋さんのセリフだよ」


「え、あ、ごめんなさい、
えっと」


「三ページ目」


キノがぽそっと呟いた。

しまった、私としたことが
キノに気をとられて自分のことを疎かにするなんて。

その当の本人のほうがちゃんとしてるじゃん。

だめだだめだ

集中しなきゃ



「し、シンドェレルア、あ、えと
私の、…新しい、靴?持ってきなさいよー」



あれ、なんか

案外

じゃなくて、かなり


難しい…



「高橋さん要練習ね」


「ご、ごめんなさい」


やっぱりうまくいかない

演技なんてうまくやれた覚え一回もないもの。

まさか高校になってこんなことするなんて思ってもみなかった。


け、けど

キノだってきっと出来ない

そう思えば
ちょっと安心。