キノは私の震える両手を握りしめて顔を覗きながら口を開いた。



「怪我は、どっか痛い?」

「ない、キノ、は」


「俺は全然、飛び込むの慣れてるから」



どういうことだよっ!

とも、今は突っ込む気力すらない。

キノの冷たい手をガタガタと握りながらゆっくりと息を整えた。


そうしていくつかキノに質問をした。



「なんで、川に…」


「ああ、ほら、さっきの女の子のわんこが川で溺れちゃってたから」


「飛び込む必要って、あるの…?ちゃんと、あるでしょ階段が。
急いでたとしても土手を駆け下りれば済むじゃん。

わざわざ?怪我するかもしれないのにさ、あんなね、高いところから普通飛び込みますか、普通、

飛び込まないよね。ねえ?
バカでしょ、バカ、あほ、バカバカバカ…っ」


「うん、バカだな、俺は」


力なくキノの胸に拳を突きつける。
キノはそれを受け入れながら私の背中に手を回して引き寄せた。

冷たい体同士だけど

くっつけば少しだけあったかかった。



「早く助けなきゃーって考えてたら飛ぶ以外思い付かなかった」


「…バカだ」


「その通りです。ごめんね、心配させて。
俺は全然平気だから、もう泣くなよ」



私の顔の涙か水か分からない透明な液体をキノの手が拭う。

キノの顔を改めて見ると

いつもの軽い癖毛は水に濡れて真っ直ぐになって、いつもより髪が長く見えた。

キノの頭に手をのばしていつものように撫でてみると、とても落ち着いた。



「キノ、ロン毛っぽい」


「そこまでじゃなくない?」


「大好き」


「お、う、うふ、ロン毛が?」


「うふって、ううん。
キノが大好き。大好き、キノ、キスして、したい、して……」


もごご…


キノの手が口を覆って、私は反抗のまなざしをキノに向けた。