講堂まで走り
舞台裏に回り込むと
一気にお客さんが入ってきた。
宣伝効果は抜群だったようだ。
「10分後スタートね
木野くん急いで髪のセットしてもらって」
キノは別の部屋に連れていかれ
私もついていく。
今さら席に座って見るのも面倒だ。
いっそ舞台袖から見守ろうと決めた。
しっかりと髪を固められたキノが髪を撫でながら渋い顔をする。
出演する人たちも周りで喋っている。
本番直前は無駄に興奮してうるさくなるな。
私も例外ではなく
ドキドキと胸が高鳴ってきた。
「キノ、大丈夫?セリフ」
「ん、平気ー」
いつもと変わらない口調のキノ。
大丈夫っていっても
こっちは不安で仕方ない。
「ちゃんと最後までできる?」
「うん。タカ見ててよ」
「うん、見てる。舞台袖から」
「おーっし、えーと、最初のセリフはー」
パチッとまばたきするキノ。
そのあと私の目を見て首を傾げながらにへらと笑った。
「なーんだっけなー」
「…大丈夫なのほんと、ちょっと、もう始まるよ?」
「あ、あ、えーと、きたきた」
よしよしと言いながらキノは私に親指をつき出す。
めっちゃ心配だわ…こいつ…
そのとき
始まりのブザーがなった。
「…始まった」
「舞台袖いこっか」
ぞろぞろと舞台袖に行って舞台が始まったのを確認した。
舞台にあたる照明は
エリちゃんに
そして姉役の二人にも当たっている。
始まったんだな
私もあそこに立つはずだったのか。
今思ったらヤバイくらい緊張していただろうな。
見てるだけでも緊張するんだから
だけど
やっぱり
出たかったかな。
舞台から響く声
舞台袖の静けさ
言い様のない
雰囲気。
ドキドキと心臓が動く音が響いた。
淡々と進んでいく劇
一つ一つのセリフは口にした途端に終わってしまう。
今までやってきたのは
この一瞬一瞬のためだったのだなあ、と実感する。
シンデレラは魔法をかけられて
12時までに舞踏会から帰らなければならない。
キノの出番が着々と近づいていく。
キノの方を見てみると
真剣な眼差しを舞台上に向けていた。
「緊張、する?」
キノは私を見た。
どうだろ、と呟く。
「わかんねー、なんか、変な気分」
「へー…。それ、緊張してるからじゃないの」
「あー…そうか」
キノが心臓に手を当てて舞台に目をうつした。
「ちょっと、ヤバい」
「手のひらに人って書いて飲み込んだらいいんだって」
私は自分の手のひらに丁寧に人の字を書いた。
それをキノに見せてやる。
すると
「…っ、」
キノは
私の腕を掴むと身を屈めて手のひらに唇を押し当てた。
一瞬で硬直する私に
キノはなぜか私の顔にふーっと息を吹き掛けた。
前髪がふわりと浮く。
なに、なに
なんなの!?
「ほんとだ、緊張解けた」
キノは一言そう言うと
暗転した舞台に行ってしまった。
行き場のない手のひらを見つめて顔が熱くなる。
こういうことさらっとやってしまうあたり
むかつく。
そして、今やることではないだろうに。
舞台裏に回り込むと
一気にお客さんが入ってきた。
宣伝効果は抜群だったようだ。
「10分後スタートね
木野くん急いで髪のセットしてもらって」
キノは別の部屋に連れていかれ
私もついていく。
今さら席に座って見るのも面倒だ。
いっそ舞台袖から見守ろうと決めた。
しっかりと髪を固められたキノが髪を撫でながら渋い顔をする。
出演する人たちも周りで喋っている。
本番直前は無駄に興奮してうるさくなるな。
私も例外ではなく
ドキドキと胸が高鳴ってきた。
「キノ、大丈夫?セリフ」
「ん、平気ー」
いつもと変わらない口調のキノ。
大丈夫っていっても
こっちは不安で仕方ない。
「ちゃんと最後までできる?」
「うん。タカ見ててよ」
「うん、見てる。舞台袖から」
「おーっし、えーと、最初のセリフはー」
パチッとまばたきするキノ。
そのあと私の目を見て首を傾げながらにへらと笑った。
「なーんだっけなー」
「…大丈夫なのほんと、ちょっと、もう始まるよ?」
「あ、あ、えーと、きたきた」
よしよしと言いながらキノは私に親指をつき出す。
めっちゃ心配だわ…こいつ…
そのとき
始まりのブザーがなった。
「…始まった」
「舞台袖いこっか」
ぞろぞろと舞台袖に行って舞台が始まったのを確認した。
舞台にあたる照明は
エリちゃんに
そして姉役の二人にも当たっている。
始まったんだな
私もあそこに立つはずだったのか。
今思ったらヤバイくらい緊張していただろうな。
見てるだけでも緊張するんだから
だけど
やっぱり
出たかったかな。
舞台から響く声
舞台袖の静けさ
言い様のない
雰囲気。
ドキドキと心臓が動く音が響いた。
淡々と進んでいく劇
一つ一つのセリフは口にした途端に終わってしまう。
今までやってきたのは
この一瞬一瞬のためだったのだなあ、と実感する。
シンデレラは魔法をかけられて
12時までに舞踏会から帰らなければならない。
キノの出番が着々と近づいていく。
キノの方を見てみると
真剣な眼差しを舞台上に向けていた。
「緊張、する?」
キノは私を見た。
どうだろ、と呟く。
「わかんねー、なんか、変な気分」
「へー…。それ、緊張してるからじゃないの」
「あー…そうか」
キノが心臓に手を当てて舞台に目をうつした。
「ちょっと、ヤバい」
「手のひらに人って書いて飲み込んだらいいんだって」
私は自分の手のひらに丁寧に人の字を書いた。
それをキノに見せてやる。
すると
「…っ、」
キノは
私の腕を掴むと身を屈めて手のひらに唇を押し当てた。
一瞬で硬直する私に
キノはなぜか私の顔にふーっと息を吹き掛けた。
前髪がふわりと浮く。
なに、なに
なんなの!?
「ほんとだ、緊張解けた」
キノは一言そう言うと
暗転した舞台に行ってしまった。
行き場のない手のひらを見つめて顔が熱くなる。
こういうことさらっとやってしまうあたり
むかつく。
そして、今やることではないだろうに。