一歩一歩
ゆっくりと近寄った。


五メートルほどの距離で足を止めて

新鮮な空気を吸い込んで、声に変換させる。




「キノ」




キノは肩を少しあげて
振り返った。

とくに表情はなかった。


キノは私を見つめながら何かいいかけて

口をつぐんだ。


屋上と言う場所に始めてきた。

よく少女漫画に出ては来るが、まさかこんなタイミングにこんなシチュエーションでたどり着くとは思わなかった。


人生は予想外なことばかりだ。

とくにキノといると余計だ。





「皆キノを探してる」



距離を保ったまま声が届くように張った。

風が笑えるほど強くて髪がばさっばさってなる。


このあとの展開はどうしよう。

手を繋いで強制送還もしくはちゃんと話し合って解決したあと送還…

もちろん。後者のつもりで来たわけだが。

どうしても問いかける口調が口にできない。

キノを追い詰めてしまうかもしれない恐怖心からだった。


黙っていると、キノから沈黙をやぶった。




「なんで昨日黙って帰ったの」


「お母さんに呼び出されたの
キノには伝え忘れていただけ」


「携帯にも出ないし、メールも来なかった」


「昨日は携帯見なかったの。深い意味はない」


そう、本当に
深い意味はなにもない。

キノとやっと対面して会話をした。

まさかこんな場所でこんな場面だとは思わなかったけれど。


昨日は本当にたくさんの人に迷惑をかけた。

私は責任もって

キノを連れていかねばならないのだ。