「なに、お母さん」
『冬〜っ、大輝ちゃんが、大輝ちゃんがぁ〜…』
鼻声のお母さん。
この声は何度か聞いたことがある。
映画や音楽ですぐ泣く母の声だ。
いつもはテンション高めだがこのときばかりはしゃべり方がもちゃもちゃになる。
大輝ちゃん?
うちの猫が
どうしたっていうの。
「大輝ちゃんが、何って」
『硬い石鹸食べたのよ〜
一個よ、一個っ
いつの間にかお風呂に入り込んでぇ〜…』
「え!?全部?」
『そうなの…どうしよう冬ちゃん
大輝ちゃん死んじゃうのかしら…』
えーと
話を総合すると、いや、しなくても
うちの飼い猫ちゃんが固形石鹸をペロリと平らげたらしい。
「大輝ちゃん、どんな感じなの?」
『なんかへちょーってうなだれてるの
かわいそう〜どうしましょ〜』
「大人がめそめそしないでよ
お父さんは仕事?
すぐ帰るから!」
『ほんと?早く帰ってきてねぇ』
電話をきり私はすぐ講堂から教室にもどりカバンを抱えて学校を出た。
吉田さんにメールをいれとけばたぶん大丈夫だろう。
それに
大輝ちゃんが心配だ。
私とキノの大切な大輝ちゃんを死なせるわけにはいかない。
衣装係でよかったかもしれない。