少しだけ

キノから来てくれるんじゃないかって期待していたが

そんな暇は王子にはないらしい。


キノの体が心配だが

あの調子なら平気なんだろう。


けど

キノの回りにいる人は誰一人キノにあった出来事を知らない。


あんなことがあっても


もう
キノの休んだ原因なんか追及する人は人もいない。


日常が私を置いて回っている気がして少し焦った。


私もいい加減頭からあの出来事を消し去りたい。

あの日の言葉を

病院でのキノの弱々しさを


出来たらもっと

楽だったのに。



どうやら私は忘れることはできないらしい。


そんな簡単な問題じゃないことは初めから分かっていたろうに。



逃げようだなんて思うなんて


だけど

結局いつも通りといっても
これもひとつの逃げなのかもしれない。

本人と

話し合わず

向き合わず


警戒しながらもいつもの生活を取り戻す。


これが正解だと信じたが


果たして本当にこれでいいのか


今は今はといっても

きっといつかキノを問いただす日なんかくるわけがない。


いつの日かキノの行動に警戒もしなくなって

またある拍子に地雷を踏んでしまったら同じことの二の舞だ。


だけど


だけど



だったらどうしたらいいの。

どうすることもできないじゃない。



キノには聞けない

真さんにも聞けない



今できることは


キノにとって安心できるいつもの日常を取り戻すこと。

表面上はこれがいいと思っていても


それで解決することは何一つないと知りながら。



ある意味

私の保身が働いているのかもしれない。


あんな思いはもう嫌だから

余計なことはしたくない


だけどあんな思いはもう嫌だから

きちんとキノを知りたい



二つの真逆の気持ちのなかを何度も行き来しながら結局、私には勇気がないことに気づく。


私は余計なことをしない方に傾く。