.+゚素条side゚+.


放課後の教室に俺は一人、自分の席の机に顔を突っ伏して。


全開の窓からわずかにそよぐ風が頬を撫でて。


あかく照らし出す夕陽が眩しくて、目を閉じてた。



コツ、コツ、コツ…………



教室に、誰か入ってきたな……



だけど、俺は目を閉じたままだった。


別に、誰が入ってこようとどうでも良かった。関係ない。


今俺は寝てるんだ、と相手も気遣ってくれるだろうし。



だが、気遣ってくれない優しくない人が教室を訪れたらしい。


耳が、そう言っている。 足音が俺へと近づいてくる。


やがて、その『誰か』は俺の頭を撫でるように、手を髪の上で滑らせた。


そんなことされたら、誰だか気になってくるじゃんかよ。


先程までどうでもよかったのに、と思いながら俺はまぶたを開く。



ゆっくりと開けたのにも関わらず、やはり夕陽は眩しい。


光に慣れ、だんだんと相手の姿が見えてくる。


スカートってことは女子だ。


髪は長めだ。


眼鏡はかけていない。


顔は………笑ってない。真顔だ。



………………真顔?



そういえば俺のクラスに、


いつも真顔と言うことで浮いている女子がいたな。


髪は長めだったはず。その子は席が後ろの方で、


俺は前から二番目だから、あまり記憶に残っていないが。



名前は何だったかな。真顔の女子だろ?


えーと………あ、そうそう、室田麗子だ。



見た目は可愛いと言うより綺麗系だ。


だが、笑わないので愛想がなく、声を聞くことなんて授業中くらいだ。


ようするに『ぼっち』ってやつさ。



俺の髪を何度も撫でる室田麗子。



「ふふっ」



自分の耳をつい疑ってしまった。


俺は先程までかすかにしか開けていない瞳を見開いた。



口角が、あがってる……………



口元に俺の頭にある方とは違う左手を添えて。


大きな丸い目を細くして。


優しい顔をして、笑っている。



突然、今まで笑ったことのない女子が、


俺の頭を撫で、笑っている。



誰だってそんなことあったら驚くだろ!?


急な出来事に動揺し、上半身を椅子に垂直になるように


体を一気に起こした。


室田麗子も驚いたのか、声を出さずに俺から離れていた。



俺は、あの綺麗な笑顔がもう一度見たくて、つい腕を握ってしまっていた。



「ねぇ、もう一度笑ってよ」


「………………」



面白い。


こっちが追い詰めると、あっちは恐る恐る逃げていく。


気が付けば、遠かった壁に俺の両手がつくほど移動していた。



こいつより俺の方が17センチくらい身長が高いんじゃないか?



室田麗子は困ったような顔でこっちを見上げてる。


今までこいつの顔の筋肉はないんだと思ってた。


けど今はそうは思えないほどの顔をしてる。



いつの間にか挑発的な笑みを浮かべてた俺は、


お互いの息がかかる距離にまで達していた。



「なぁ、笑えよー」



俺は自慢の変顔を見せる。



………駄目だ、ぴくりともしない。


ただ、困った表情が浮かんでいるだけ。



だが、困った表情も可愛い。何と言うか、新鮮だ。


自分がここまで性格の悪いやつだとは思ってなかった。



困るってことは、笑うし、泣くし、照れるってことだろ?


困る顔は制覇済みだ。笑わせることは無理らしい。


だが、さすがに泣かせるわけにもいかない。



こうなったら、照れさせてやるしかねぇか!


「なぁー笑えよー!笑った方が絶対可愛いから!」



……………………言っているこっちが照れる。


色んな顔をさせるためとはいえ、本性だ。


こんなにストレートだったか自分!!!



でも駄目だ。俺が照れてもこいつは笑わない。


くそ、何をしたら顔が変わる?



息がかかるほどの距離で、俺は壁についていた右手を彼女の頬へ運ぶ。



あたたかくて、柔らかくて、小さくて。


初めて触る女子の顔。


ずっと見ていたら吸い込まれそうな白い肌。



あれ?なんか段々触れた頬が赤みを帯びていくような………



「お、おぉ!?」



気づいたら室田麗子の表情が変わってた。


顔を真っ赤にして、目線が逸れてて、


手が抵抗するように俺の腕をつかんでる。




これは照れているのか!






変顔じゃ動じなかった室田麗子が、


頬を触ることで顔を赤くする。



……………ボディータッチで照れるのか?



そんなことを考えていると、いつからか室田麗子の顔が真顔に戻っていた。



「今日の事は誰にも言わないで」


「おい、ちょっ………!」



なぜか必死に右手を伸ばして止めようと思ったけど、


長い髪が艶をまとい綺麗に揺れ、それに見とれることしかできなかった。




つまりは逃げられたんだ、俺。