「すまない、朱里。
俺が一人にしたのが悪かった。」
私を片手で抱き上げ、
目では天狗と対峙する彼。
「いえ、大丈夫です。」
声が震えていた。ださいな、私。
いや、これが普通なのかな・・・。
「アホ狐、俺の獲物を横取りするな。」
くそ天狗と呼ばれた彼が、
向かい側で嘲笑うように狐さんを見る。
「どっちが横取りしたんだか。」
「その娘、さっきはあんなに脅えていたのに。
お前は信頼されてるみたいだな。
・・・あやかしのくせに。」
「っ、」
一瞬、狐さんがひるむ。
「狐さんは、貴方とは違います!!」
気づけば叫んでいた。が、
「あ?」
「ひぃっ、」
天狗の低い声に飛び上がる。
「・・・まぁいい。
せいぜい、そのアホ狐に喰われるまで、
そう御託を並べていればいい。」
「俺は朱里は喰わない。」
「・・・どうだか。」
ふ、と微笑んだかと思えば、
次の瞬間には天狗の姿は消えていて、
天狗がいた場所には木の葉が舞っていた。